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AI研修に、助成金は使えるか — 制度の基本と、落とし穴
約7分
「AI研修、助成金で安くできるんでしょう?」——研修のご相談で、ほぼ必ず出てくる質問です。答えは「使える場合が多い。ただし、事前の手続きがすべて」。この記事では、国の人材開発支援助成金を中心に、経営者が押さえるべき要点だけを整理します。制度は年度途中でも改正されるため、本記事は2026年7月時点の厚生労働省の公式資料(令和8年5月14日改正版)に基づき、最新の確認先も末尾に示します。
結論: 生成AI研修は「対象になり得る」。鍵は事前申請
企業の研修費用を支援する国の制度が、厚生労働省の「人材開発支援助成金」です。このうち「事業展開等リスキリング支援コース」は、企業のDX化に関連する業務に必要な知識・技能の訓練を明示的に対象としており、公式パンフレットにはAI・RPA活用やITツール活用の訓練例も掲載されています。つまり、10時間以上の外部研修(OFF-JT)として設計された生成AI研修は、要件を満たせば対象になり得ます。
ここで大事な前提をひとつ。厚生労働省は「この研修会社のこの講座なら助成対象」という認定を出していません。対象になるかは、貴社の事業・受講者の職務との関連で、労働局が個別に判断します。だから「当社の研修は助成金対象です」と断定する業者には、注意が必要です。誠実に言えるのは「要件に沿った形で設計し、対象になるよう申請を支援する」までです。
なお大阪の企業向けに補足すると、府の中小企業向け研修費補助(大阪府中小企業従業員人材育成支援補助金)は令和7年度で終了しています。地元の補助金を探し回るより、国の制度を本命として検討するのが2026年度の現実的な選択です。
使いやすいコースと、金額の目安
中小企業のAI研修でまず検討したいのが「事業展開等リスキリング支援コース」です。経費助成は対象経費の75%(上限は1人1訓練あたり、実訓練10時間以上100時間未満で30万円)。加えて、訓練時間中の賃金助成が1人1時間あたり1,000円つきます。たとえば12時間の集合研修なら、賃金助成だけで1人あたり1万2,000円という計算です。
このコースには重要な注意点があります。令和4〜8年度の期間限定の制度で、2026年度(令和8年度)が現行制度の最終年度にあたることが公式パンフレットに明記されています。後継の制度は現時点で公表されていません。検討するなら、今年度が節目です。
リスキリングコースに乗らない場合の受け皿が、恒常的な「人材育成支援コース」です。職務に関連した10時間以上のOFF-JTが広く対象で、中小企業の経費助成は45%(賃上げ等の要件を満たせば60%)。助成率は下がりますが、期限のない基本コースとして押さえておく価値があります。なお「人への投資促進コース」の高度デジタル人材訓練(経費75%)もありますが、対象がITスキル標準レベル3・4相当の課程などに限られるため、一般的な生成AIリテラシー研修には向きません。
スケジュールが命。「研修が決まってから申請」では遅い
この助成金で最も多いつまずきは、内容ではなく手続きの時期です。訓練計画届は、訓練開始日の6か月前から1か月前までの間に、事業所所在地の労働局へ提出しなければなりません。期限を過ぎた提出は不支給事由です。つまり「来月やりたい」では間に合いません。研修の検討と申請準備は、少なくとも開始の2か月以上前から並走させる必要があります。
お金の流れも先に知っておいてください。訓練経費は、いったん全額を会社が支払います(受講者に一部でも負担させると不支給になります)。支給申請は訓練終了日の翌日から2か月以内。そして令和7年度以降、審査は支給申請後に一括して行う運用に変わったため、計画届が受理されても支給が確約されたわけではありません。入金までの期間も公式には明示されていないので、資金繰りは「助成金をあてにしない前提」で組むのが安全です。
実務のポイントもいくつか。計画届の提出日までに「職業能力開発推進者の選任」と「事業内職業能力開発計画の策定・周知」が必要です。通学制・リアルタイム型オンライン研修は実訓練時間の8割以上の受講が支給要件。日程を変更したのに変更届を出さないと、その部分が対象外になります。細かい話に見えますが、不支給の多くはこうした手続きの穴から生まれます。
公式に注意喚起されている「うまい話」
厚生労働省のパンフレットには、異例なほど具体的な注意喚起が載っています。いわく「AI研修とAIツールの導入をセットにして、ツール導入費も研修費として申請できる」という勧誘——これは不適正です。AI研修の費用は対象経費になり得ますが、AIツールの導入費用は対象外。また、アンケート協力金などの名目で受講料を実質無料にするスキームも全額が対象外となり、不正受給に関与した研修機関は事業主との連帯債務や名称公表の対象になります。
2026年5月の改正では「受講料の価格設定に関する疎明書」の提出も必要になりました。助成金があることを前提に受講料が不自然に高く設定されている場合、その差額は支給対象外です。「実質無料」「助成金で丸ごと賄える」を売り文句にする研修には、制度側が明確に網を張り始めた、ということです。
もうひとつ、意外と知られていない線引きがあります。助成金の申請書作成や提出代行を報酬を得て行えるのは、社会保険労務士だけです(社会保険労務士法第27条)。研修会社が「申請も無償でサポートします」と言う場合、その対価が受講料に含まれていると評価されれば同条に抵触し得る——ここまで公式パンフレットに書かれています。申請手続きは、顧問の社会保険労務士か、助成金に強い社労士事務所に依頼するのが、結局いちばん確実で安全です。
現実的な進め方 — 5つのステップ
整理すると、進め方はこうなります。(1) まず研修の目的と対象者を決める(助成金は後。目的が先です)。(2) 研修会社と内容・時間数を設計する(10時間以上のOFF-JT、職務との関連を明確に)。(3) 社労士に相談し、労働局に事前確認する。(4) 訓練開始の1か月前(余裕を持って2〜3か月前)までに計画届を提出する。(5) 実施後、2か月以内に支給申請する。
私たちのChatGPT研修・生成AI研修も、10時間以上の同時双方向型など、要件に沿った形で設計しています。ただ、この記事を読んでいただいた通り、「対象になります」とは断定しません——最終判断は労働局が個別に行うからです。それを踏まえたうえで、貴社の状況で使えそうかの見立てと段取りは、初回相談(無料)でお話しできます。断定しない業者を選ぶこと。それがこの制度との、いちばん正しい付き合い方だと考えています。
出典・一次情報
- 厚生労働省「人材開発支援助成金」(令和8年度)
- 同・事業展開等リスキリング支援コース 詳細パンフレット(令和8年5月14日版)
- 同・人材育成支援コース 詳細パンフレット(令和8年5月14日版)
- 大阪府中小企業従業員人材育成支援補助金(令和7年度で終了)
制度の要件・金額は改正されることがあります。適用の最終確認は上記の公式情報および管轄の労働局・専門家(社会保険労務士等)にてお願いします。
