STRATEGY

経営者の視点で読み解くDXの優先順位

約5分著者: 青木 紘史(代表取締役)

DXやAI活用の情報は溢れているのに、「結局、自社は何から手をつけるべきか」への答えは、どこにも書いてありません。それは当然で、優先順位は各社の事業構造の中にしかないからです。ここでは、その優先順位を自社で考えるための軸を整理します。

「流行から選ぶ」と、なぜ失敗するのか

多くの失敗に共通するのは、打ち手がツール起点で決まっていることです。「他社が導入したから」「展示会で見たから」で始まった施策は、自社のどの課題を解くのかが後付けになります。導入そのものがゴールになり、成果を測る基準がないまま、更新費用だけが残ります。

ツールは手段です。順番としては、成長や利益を最も妨げている箇所(ボトルネック)を先に特定し、それを解く手段としてテクノロジーを選ぶ。中堅企業でよくあるのは、受発注のFAXと手入力、見積り作成が数名のベテランに張り付いている状態、月次の数字が締め後二週間経たないと見えないこと——いずれも派手さはありませんが、ここが動くと事業全体が動きます。この順番を守るだけでも、投資の打率は大きく変わると考えています。

優先順位の基本は、インパクト × 実現性

候補が複数あるときの基本の軸は、事業へのインパクトと実現性の掛け算です。ただし、きれいな二軸の表を作る必要はありません。実務では、候補を十件ほど書き出し、それぞれに「改善されたら動く数字」を一つだけ添えてみてください。ここで数字が書けない候補は、その時点で見送りで構いません。インパクトは精緻な試算より、時間×人件費の粗い換算で十分です。実現性は「データは揃っているか、現場は受け入れられるか、小さく試せるか」の三問で判定できます。両方が高い領域から着手します。

ここで注意したいのが、部分最適の罠です。ある工程だけを速くしても、その前後が詰まれば全体の成果は変わりません。業務プロセス全体を俯瞰し、どこが本当のボトルネックかを見極めてから、資源を投じる。一点のツール導入ではなく、事業全体の流れ(スループット)を良くする——この視点は、経営者にしか持てません。

もうひとつの規律は、効果を最初に数字で定義することです。「なんとなく便利になった」では、続ける・広げる・やめるの判断ができません。処理時間、利用率、削減コスト——粗くてもよいので、始める前に測り方を決めておく。撤退基準を先に決めておくことは、挑戦の数を増やすための保険でもあります。

「守り」から始めて、「攻め」へ射程を上げる

私たちは、DXを三つの層で捉えています。業務を最適化し生産性を高める「守り」(企業の変革)、市場の未来を見極め新たな価値創造をリードする「攻め」(市場の変革)、そしてその先に、業界の関係そのものを競争から共創へ変えていく一段(業界の変革)があります。この捉え方を 3C-X と呼んでいます。

順番が大切です。多くの企業にとって現実的な出発点は「守り」です。業務の無駄を減らし、数字が見える状態を作ることで、初めて「攻め」に振り向けるリソースと判断材料が生まれます。ただし、守りはゴールではなく出発点です。効率化で終わってしまうDXは、未来を変えません。守りで生まれた余力を、どの市場・どの価値に振り向けるか——そこからが、経営としてのDXの本番だと考えています。

決められないときは、決め方から整える

ここまでの軸を並べても、実際には「自社のボトルネックがどこか」の見立て自体が難しい、というのが正直なところだと思います。その場合は、いきなり打ち手を決めようとせず、「決めるための材料づくり」から始めるのが早道です。たとえば、受注から入金までの流れを工程ごとに一枚に書き出し、それぞれの担当・所要時間・待ち時間を現場に直接聞いてみる。外部の手を借りずとも数週間でできますし、数字が並んだ時点で、ボトルネックの候補は二つか三つに絞られていくはずです。

外部の視点を入れる価値があるとすれば、答えをもらうためではなく、この見立てと決め方を一緒に整えるためです。判断そのものは、経営者にしかできません。私たちはその判断が速く、確かになるための材料と選択肢を用意する役割だと考えています。